2025.12.19
牡蠣養殖における海況データ活用の事例ーうみログ自動昇降モデル導入事例|佐藤養殖場(三重県志摩市)

今回ご紹介するのは、三重県志摩市で100年にわたり牡蠣養殖業を営まれている「佐藤養殖場」様です。
本記事では、2023年11月にIoT海洋モニタリングシステム「うみログ自動昇降モデル」を導入し、約1年が経過した2025年2月時点での取材をもとに、牡蠣養殖業の現場における活用方法や、そのポイントについてお話を伺いました。
日々、海と向き合う現場で、高水温や赤潮、貧酸素といった環境変化に対し、海水温・塩分・酸素濃度・クロロフィルといったデータをどのようにとらえ、養殖管理や出荷判断に活かしているのかをご紹介します。

現場で海水を汲んでいた作業が、データを見る判断に変わった
以前は、海水を汲んでデータを取っていたので、その時間、その場所のピンポイントな情報しか分かりませんでした。どうしても、限られた範囲でしか判断できなかったと思います。
今は、機械が自動で下がって、上がって、という形でずっと測ってくれているので、連続した時系列データが見られます。
本当に大変助かっていますし、僕らも大いに活用させてもらっています。
夏場は、高水温と塩分の変化を特に気にしている
夏場はやっぱり湾内の高水温ですね。年々かなり水温が上がってきていますので、特によく見ています。
最近は雨の降り方もかなり激しくて、その影響で塩分濃度が下がることもあります。そういった変化は牡蠣にとっても悪影響になるので、水面からどのくらいまで比重が下がっているのかを見ながら、牡蠣を吊るす位置を下げたりと、対処するために使わせてもらっています。
データで見えてきた海水温の状況
この自動昇降モデルの機械を付けてもらって分かったのは、表面だけじゃなくて、もう下までしっかり水温が上がっているということですね。
もちろん深いところの方が若干は低いんですけど、それでも全体的に高い。とはいえ、あまり逃がしすぎると牡蠣の成長やエサの取り方にも影響が出ます。
「最大限ギリギリのところでかわす」ために、今どれくらい水温が上がっているのかを自分たちで確認する、という使い方ですね。
今までの自分たちの“勘”の部分が、こういう機械を据えてもらうことで数値として見える化される。それが本当に助かっています。
夏の高水温時における対応
夏になると、表面(表層)の1〜2mくらいが30℃を超えてきます。牡蠣にしてみれば、生存限界というか、ギリギリの状況になってくるかなと思います。そのため、常に牡蠣の様子と海水温のデータを照らし合わせて見るようにしています。
夏場は、三倍体や岩牡蠣を扱っていますが、岩牡蠣は浅いところには吊らず、少し深めに設置しています。
一方、三倍体は出荷前に1.5mくらいに吊っていますが、状況を見て少し下げてみようか、と判断することもあります。
海水温の推移を見ていると、30℃を超える状況自体は毎年ある程度起きていることも分かってきました。そうした傾向が見えてきたことで、極端な対応をしなくてもいいのかな、とも思っています。
赤潮や貧酸素の兆しをとらえる
春先から秋にかけて発生リスクが高まる貧酸素についても、「うみログ」のデータで兆しから変化まで見えるようになってきました。
表面に赤潮が出ているのは、陸から見ていたり、船で走っていると海の色でわかるのですが、プランクトンの濃度が異常な数値になっているのもデータで確認できます。そのあと、酸素濃度が下がってくるのか、下がってこないのかをデータを見て確認できるので、安心感があります。

餌が急に少なくなることもある冬場
冬は餌※が急激になくなることもあります。牡蠣の成長も、同じ1週間でも餌がある時とない時では大きく違います。
そのため冬場は特に、クロロフィルのデータを気にしながら、餌の状況と牡蠣の状態を見ています。
うちは一度、牡蠣の表面をきれいに掃除してから、餌を食べやすいようにカゴに入れて、蓄養(ちくよう)という形で一度海に戻します。その蓄養の日数も、餌がない状況だと少し延ばしたりします。
こういった対応が、数字で見えるようになったのは本当にありがたいですね。
※牡蠣にとっての主な餌は植物プランクトンで、その量の目安になるのがクロロフィルの数値です
うみログを使い始めて見えてきたこと
うみログを使い始めてから、見えていなかった部分がデータとして見えるようになりました。
比重もそうでしたが、特に大きかったのは酸素濃度です。
うみログ導入前は、夏場に酸素濃度が下がり続けている時間が長く、その影響で二倍体の牡蠣が死滅しているのではないか、と考えていました。
しかし、データを見ると酸素濃度が下がるのはごく短時間で、ピンポイントに起きているだけだという事がわかりました。
さまざまな仮説をたててきましたが、どうもそうじゃないなという事がうみログによって見えてきました。

出荷時期の判断を支える「データ」
一度お客様に案内した出荷時期を変更するとなると、どうしても先方への影響もありますし、会社としても労力がかかってしまいます。そのため、「このくらいの時期には、このくらいの水温になっていそうだ」という予測が立てられることは、とても大きいですね。
データを共通の材料にして、社内で判断している
現場側からは、「これくらいの時期になったら、この水温になっていると思います」「そのくらいになると、牡蠣の身入りも良くなってくるのでは」という話をしています。
そういった情報を会社全体で共有しながら、「このくらいでいきますか」という形で話し合っています。
うみログのデータは、その判断材料のひとつとして使わせてもらっています。
今年はまだ夏から秋、冬にかけての通しのデータがまだ揃っていませんでしたが、来年はその流れが見えくると思います。今年度と比べて、どれくらい差が出ているのかを見て、また違う手が打てるんじゃないかなと考えています。

現場では3人くらいで、うみログのデータを見ています。データを直接見ていないメンバーにも、台風など危ない状況の時は翌朝すぐ情報共有しています。
毎朝、朝礼をしているのですが、その中で、うみログで取ってもらっているデータの中で、何かおかしな動きがあった時には共有しています。
例えば、大雨が降って比重が下がっている時には、「牡蠣の身入りが落ちるかもしれません」といった注意喚起をして、出荷や提供の現場でも意識してもらうようにしています。
出荷担当の人からも、うみログのデータを見て「これ大丈夫ですか?」と聞かれることがあり、(出荷の人も)見てるんだなと感じますし、意識の向上にもつながっていると思います。
また、僕らは的矢でデータを取っていますが、他の場所との比較もしていきたいですね。
過去何年かデータを取っている場所と比べて、気温や海水温がどの規模で変わってきているのか。それが分かれば自分たちがどういう対策を取っていけるのかも見えてくると思います。
まだ導入から1年という段階ですが、これから2年、3年とデータが積み上がっていく中で、自分たちもどんどんアップグレードしていきたいと思っています。


佐藤養殖場
1925年創業。的矢湾の自然条件を生かし、牡蠣養殖を行っています。
独自の養殖法と浄化技術により、高品質な「的矢かき」を生産。
その伝統と品質は高く評価され、「三重ブランド」にも認定されています。
佐藤養殖場 公式サイト
https://seijyoumatoyakaki.com/
